新型コロナウイルスが猛威を振るっているが、過去に人々を恐怖の底に落とした感染症はいくつもある。その一つが江戸期から幾度となく流行した「コレラ」だ。兵庫県丹波市の歴史を調査する「氷上郷土史研究会」の古文書部会(山内順子代表)が、同市内の円通寺で進めるふすまや屏風の下張り文書はがし作業で、1877年(明治10)に流行していたコレラに関する県や内務省の通達文書を見つけた。住民への啓発文書で、感染しても無症状の場合があるといった、新型コロナのニュースと錯覚するような文言が並んでおり、約140年前の日本人も現在と同じような恐怖に震えていたことがうかがえる。
治療法探る医療従事者の奮闘、患者数の公表も
一枚の屏風からはがした115枚のうち、23枚がコレラ流行に関する文書だった。いずれもB4サイズの原稿用紙に活版印刷で印字されている。昨年5月に発見した。
文書の中で最も古い日付は明治10年9月23日で、内務省衛生局が発行した「報告第六号」。明治政府により、“お雇い外国人”として東京医学校(現東京大学医学部)の教師に招かれたドイツ帝国の医師ベルツが調べた、予防や症状、治療法を紹介している。
県が「県検疫委員報告」として発した文書も見つかった。同年9月29日付の「第二号」には、「公立神戸病院より、其病理、予防、徴候、治法を差し出せり」とあり、コレラの歴史や流行の原因などを記載。「注意すべきは、その毒を受くると雖も、コレラ病を発することなく、却て、他人にその毒を伝ふることあり」とし、感染していても無症状の場合があり、知らずのうちに伝染させているという、新型コロナウイルスと同じ傾向にあったことが分かる。
いくつか予防法を挙げた上で「国境に入る他国人を、各一、検査し、コレラ病あるものは、これを適宜に所置すべきである」とし、「表見、健康の人たりとも、この毒を輸致することあるがゆえに、これを以て、十全の予防法とすること能はず」としている。コロナの無症状感染者発見の難しさをほうふつとさせる。
文書の中で、県はコレラを「施用する特効薬あることなし」と表現。一方で、この未知なる病原菌に対する医療従事者の戦いも、文書の中から読み取れる。アヘンや炭酸水などを用いた治療法の記述が見られ、現在のコロナウイルスと同様、現場の最前線で特効薬などを開発しようとする医療従事者の姿と重なる。
また、同年10月17日付の「報告第七号」には、9月22日―10月15日までの県内患者数を掲載。総数は490人で、うち一般患者が144人、避病院(伝染病専門病院)の患者は346人。一般患者の内訳は死亡89人、治癒7人、治療中48人。避病院患者は死亡229人、治癒21人、治療中96人。
「社会の弱点」あぶり出し乗り越えた先人たち
これらの文書が同寺に残されていた理由を山内代表は、「文書の中に、『各区区長などは熟読し、その趣旨を理解し、予防に注意すべし』という内容が書かれている。昔はお寺が今の市役所的な役割を果たしており、お寺から地域住民にお達しが伝えられることがあった」と語る。「コレラの流行を契機に、公衆衛生の考えなどが広まり、インフラも整備されていった。社会の弱点をあぶり出し、それに屈することなく先人たちは乗り越えていった。その姿勢には学ぶべきものがある」と話している。
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May 04, 2020 at 06:00AM
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