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料理を通して食材や食文化の魅力を発信している料理人を顕彰する「料理マスターズ」。第12回となる昨年、新潟県内から初めて2人の料理人が選ばれた。地元・新潟の食材にこだわり、県外の食通をもうならせる2人が11月、新潟市内であったセミナーで、こだわりのわけを語った。
2人は、新発田市の「鮨(すし) 登喜和(ときわ)」の小林宏輔(こうすけ)さん(42)と、新潟市西蒲区の「割烹(かっぽう) 渡辺」の渡辺大生(ひろお)さん(48)。小林さんは漁業者との交流を深め、自家消費されていた魚類を買い取ることで漁業者の収益向上につなげた。渡辺さんは、伝統野菜の寄居かぶや白ナスなどを守るため、販路の提案やレシピ作りを担い、地産地消に取り組む飲食店や生産者を増やしたことが評価された。
「鮨 登喜和」の食材は今はほぼ地物だが、5年前に「おまかせ」のみのスタイルに変えたときは、青森・大間のマグロや熊本・天草のクエ、瀬戸内のタイなども使っていたという。
「それでは東京のすし店とほとんど一緒。わざわざ新発田に来てもらう意味がない」と小林さん。やがて考え直し、漁協の競り場に通ってアジとカスゴ(チダイの幼魚)を一年中買い続けた。すると、修業した東京で覚えたこととの違いに気づいた。
東京では初夏に出回る小型のアジがとろけるような食感で良かったが、新潟では冬場の大型が身がしっかりして脂も乗っていた。カスゴも日ごとに違いがあった。「何も知らずにやっていたな、と。それからはとにかく地物を買って食べまくった」
温暖化の影響で新潟沖で揚がる魚の種類や旬は年々変わり、サイズや取れた海の深さによっても良しあしに差が出る。探究に終わりはないが、小林さんは「その日その日、目の前にある食材がすべて。お客様に、旬の新潟の魚が食べられると思って来てもらえるよう仕事をしていく」と話した。
渡辺さんも「変化に合わせて僕らも変化することが大事。何を使い、どういったおいしいものを提供できるか。それしかない」と言い切った。「割烹 渡辺」には、コース料理に付き物のお品書きと前菜がない。
「同じ食材でも日ごとにポテンシャルが違うので、日々同じコースは作れない。できたてを食べてほしいので前菜も作らない」
24歳で家業を継いでからしばらくは全国の食材を使っていた。あるとき、地元農家から食材を買う際、「本当は1個300円で売りたいのに100円でしか売れず、生活が苦しい」と聞いた。「自分がやってきたことが恥ずかしかった。地元にあるいい食材を使おうと思った」と転機を振り返った。
8年前、県内の洋食のシェフたちと料理の研究会を立ち上げ、副代表に就任。その翌年には、新潟から和食の楽しさを発信する団体を日本料理店の店主たちとつくった。どちらも飲食店全体のレベルを底上げするためだ。「全国から客を呼べる店が増えれば、新潟はもっと発展するし、生産者の状況も良くなる。一店一店が新潟の食材を使い、その魅力を発信することが大事だ」と語った。
小林さんも渡辺さんも、生産者からの仕入れの際、「安くして」と言わないという。「生産者が生活できなくなってやめられるのが一番困る。市場で買うより高くても、おいしさを食べ手に届けることを考えると、じかに仕入れた方が価値がある」と渡辺さん。ただ、仕入れの価格は料理の値段設定に反映される。客に受け入れられなければ、店の経営は成り立たない。
小林さんは「常に細い綱を渡っている感じはある」と言いつつ、「それくらいじゃないとやっている意味がない」。渡辺さんも「僕らが経営につなげてこそ、他の店もよりよい食材を求めるようになり、新潟の食材の価値を上げることができる」と述べた。(茂木克信)
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料理マスターズ フランスの農事功労章をモデルに、農林水産省が2010年に創設した料理人の顕彰制度。継続的な取り組みを評価するため、ステップアップするのが特徴。入り口のブロンズ賞は年間最大8人に授与され、それから5年以上経た人を対象にシルバー賞が年間最大5人に贈られる。ゴールド賞は、シルバー賞受賞から5年以上経った人を対象に年間最大3人に贈られ、昨年初めて3人が受賞した。
13回目の今年のブロンズ賞は、新潟県南魚沼市の宿泊施設「里山十帖(じゅうじょう)」の桑木野恵子さん(日本料理)ら8人が受賞した。これで県内の受賞者は3人、全国では97人となった。
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セミナーでは、小林さんと渡辺さんに魚を提供している漁業者の一人、新潟漁協岩船港支所(村上市)の高木雅貴さん(28)もマイクを握った。高木さんは、魚の鮮度を保つため、死後硬直を遅らせる「神経締め」を実践している。だが、新潟では下処理の手法として十分に浸透しておらず、料理店に売れずに残った分を競りに出しても、良い値段がつかないばかりか「傷物として下げられたこともある」。仲買人には「売り先がない」と言われたという。
この話に、小林さんは「価値ある魚が正当に評価されないと、先につながらない。価値を発信するのも料理人の仕事だ」。渡辺さんも、「料理を通してお客様の知識につなげていきたい」と応じた。
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