料理好きな俳優・渡辺早織さんが心に寄り添った手料理を紹介する連載です。今月から動画も加わり、リニューアル。ほろ苦かったり、甘酸っぱかったり、思い出とつながったご飯は何だか忘れられません。明日を頑張るあなたの活力になりますように……。そんな思いを込めた料理エッセーです。詳しい作り方はフォトギャラリーでご紹介します。
久しぶりに訪れた街の景色が変わっていないのを目にすると、ふわふわの布団にくるまった時のような安心感につつまれる心地になる。
下北沢は私にとって特別な街だ。
いっこうに片付かないおもちゃ箱のような路地にはカラフルな古着屋さんや、自分しか知るはずがないと思わせてくれる喫茶店なんかがごちゃごちゃある。
そんな下北沢は長い工事がついに終わり、駅前はキラキラと再開発を遂げた。新しいものを見るとときめくし、ついつい試しに色々買ってみてしまう。
だけどこの街においては、なんとなく自分から路地に迷い込みに行きたくなってしまうのだ。
おばあちゃんの料理のポリシー
週末になるとお母さんの自転車の後ろに乗せられて、おばあちゃんちへ向かった。おばあちゃんちはうちから15分くらいの近いところにあって、よく行っていたんだと思う。
お姉ちゃんと私2人でのおばあちゃんちへのお泊まり会が、私は大好きだった。小学校にあがる前の子供2人のお世話は大変だったろうに、いつも笑顔で迎えてくれた。
おばあちゃんのおうちにつくと、ちょっと大げさなフリルのパジャマをいつも用意してくれて、それを着ながらお姉ちゃんとおふとんの上を飛びはねたり、家ではあまり見せてもらえないようなアニメも特別に見せてもらったりしていた。
下北沢のおばあちゃんちの時間は、私にとってはずーっとなめていられる甘いキャラメルのようなものだったのだ。

おばあちゃんは料理が得意で、私が料理好きになったとても大きな要素の一つに間違いない。
おばあちゃんの料理にはいくつかのポリシーがあった。
食材は安全でいいものを使うこと。
子供だから、日常のご飯だからと食材を妥協しているところを見た記憶がない。その代わり、「これはこういうもので、このお肉はだから高いんだよ」という風にいつも説明されていた。
すっかりわがままに育った私はその一言がいつも子供ながら嫌で、「味の違いは自分には分からないし、そんな風に言われたら食べづらいよ」なんてよくおばあちゃんにはむかっていた。
もう一つは、姉妹の料理は必ず量をはかって取りわけること。
よく作ってくれたミートソースのスパゲティやガーリックライスは出来上がるといつも秤の上に乗せられてきっちり同じ量だけお皿にわけられた。
ある日、なんでいつもご飯を量るのか疑問に思って聞いたことがあった。
するとおばあちゃんは「お姉ちゃんの方が年上だからってお姉ちゃんが多く食べられるのは変でしょ。だからいつも同じ量になるように平等にしているんだよ」と教えてくれた。
これらは今の私を形成するのに十分すぎるほどの影響がある。
おかげで今では細かく味の違いが分かる方だと思うし、年齢や外側にあるものはその人を見る上では関係のないものだとはっきり言うことができる。

下北沢のおうちについた後は、おばあちゃんと手をつないで、一緒にスーパーに買い物に行った。
「今日は何が食べたい?」と聞くおばあちゃんに、4歳か5歳の私の答えはいつも一つだった。
「お茶漬けがいい!」
あまり料理の種類を知らないし、すごく偏食だったし、やわらかいものしか食べたくなかったから。
多分本当にいつもリクエストしていたから、おばあちゃんはどうにかお茶漬けでも栄養がとれるようにと頭をひねっていたのだと思う。
それでいつも鮮魚のコーナーに行って鯛(たい)を手にとり、そして家に戻った。鯛というものがどういう魚かは知らなかったけど、それは私の好きな食べ物だった。
たくさんのわがままが詰まった私にとっての下北沢の味、おばあちゃんの鯛茶漬け。
今日は丁寧に鯛茶漬けを作りたいと思います。
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