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日本がフランス料理世界大会勝てない根本理由 - au Webポータル

ボキューズ・ドールで日本が披露したプラッター(大皿料理)。お題になったメイン素材はあんこうと帆立貝だった(ⒸJulien Bouvier studio)

参加国24カ国中、12位――。世界最高峰のフランス料理の世界大会「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」は、2年に1回、1月に開催され、世界各国から一流シェフが集まる、まさに「美食のワールドカップ」。2023年1月に開催された大会に、初優勝を目指して臨んだが、その結果はあまりにも残酷なものだった。

日本といえば、「美食大国」で、シェフも一流揃いとのイメージがあるが、なぜフランス料理の世界では勝てないのだろうか。大会から半年経った今、シェフたちが敗因を分析。そこからは日本の料理業界が抱える課題も見えてきた。

今年も強かった北欧勢

1月22日に開催された決勝では、各大陸の大会を勝ち抜いた24カ国のシェフチームは、今回のテーマである「かぼちゃ、卵を使うことが必須の子どものための料理」と、メイン素材である、あんこうとホタテ貝のプラッター(大皿料理を)を5時間半の制限時間内に調理。会場では各国の応援団が旗を振ったり、鳴り物を使って声援を上げたり、まさにお祭り状態だ。

大会開始から4時間がたつと試食審査が始まり。味、温度、色、盛り付け、構成、クリエイティビティ……細かく分かれた採点項目に沿って、入念に吟味しながら点数をつけていく。2日目、全チームの試食が終わったら、3時間後には表彰式が始まる。

表彰式では、ベストプラッター賞、ベストコミ賞、Social Commitment Awardなどの特別賞が発表されたあとにベスト3が発表された。今年は3位ハンガリー、2位ノルウェー、1位デンマークと、またしても、北欧勢の牙城だった。日本は大会を12位で終えた。

優勝したデンマークのプラッターは見た目から美しい(ⒸJulien Bouvier studio)

今大会は「1位をとるための大会」と、日本のボキューズ・ドールアカデミーも体制を変えて臨んだ。本番とほぼ同じキッチンを設置して練習に励み、プラッターは、世界に冠たるプロダクトデザイナーの鈴木啓太氏とデザインを作りこみ、あんこうを焼くための型や、ガルニチュールを固める型などは、3Dプリンターで作るなど、新しい手法も試みた。

日本チームは、子どもが選んだ一番大好きなプレート賞に選ばれた(c)Julien Bouvier studio

スコットランド産あんこう(本番で使ったあんこう)が日本で手に入らないというデメリットはあったが、それでも、魚がテーマということで、日本に利もあった。では、なぜ勝てなかったのであろうか。

圧倒的に準備不足だった

シェフたちの話を総合すると、準備と作戦が足りなかったのが最大の理由のようだ。国内大会を勝ち抜き代表となった石井友之シェフ(ひらまつグループ「アルジェント」所属)は、「今回、レシピのすべてをほとんど自分で決めてきました。もちろん、随時先輩方の意見は聞き、そのたびごとに修正はしてきましたが、もっと、根本的なところでアドバイスをもらうべきだったのかもしれません」と振り返る。

キッチン審査員であり、メンターを務めた長谷川幸太郎シェフも、「石井さんにまかせすぎた部分があった」と認める。「北欧勢は、デンマークなら、三つ星で、ボキューズ・ドールの優勝者にして、ベスト50の1位でもある『ゲラニウム』のラスムス・コフォードシェフがレシピを監修しています。また今回、ハンガリーから出場したのは二つ星のシェフで、6年かけてコフォードシェフが指導したそうで、その差は歴然です」。

つまり、今回勝ったチームは長い時間をかけ、ボキューズ・ドールのために訓練をして料理の腕を上げ、ボキューズ・ドールで勝つための戦略を練り上げた、と言える。石井シェフもお店を休んで大会に臨んだが、「強い国」に比べれば訓練期間が短かったのは否めない。

日本チーム、写真左から浜田シェフ、日本代表として戦った石井シェフ、長谷川シェフ、米田シェフ、コミとして参加した林シェフ(Ⓒ Bocuse d’Or2023/GLevents)

この準備不足が本番で足を引っ張る結果となる。過去3位入賞の経験を持ち、日本チームのコーチを務めた浜田統之シェフは、「厳しいことを言うようですが、料理の内容としては、12位は妥当だと思いました。落ち着いているように見えて、石井さんが相当テンパっていて、ガルニのマカロンが1個足りないなどということもありましたし、外堀を埋めていくことで精いっぱいで、料理の内容を深めるところまでいけなかったような気もします」と話す。

「上位国は、野菜1個1個にしても寸分の狂いもない。料理人が見てもすごいなと思わせなければいけないのです。私自身も初回は17位でしたから、やはり、もっと経験が必要になってくるでしょう」(浜田シェフ)

実際、石井シェフも「スケジュールを前倒しすべきだった。そこが現場での焦りにつながってしまった」と認めている。

「勝つためには、F1の戦い方が必要なんです」と浜田シェフは言う。「最高のテクノロジーで高性能なマシーンを作って、それを運転する。そして、随時、コックピットで、力を合わせてメンテナンスする。北欧など常勝国は、今、その方式をとっています」。

これはどういうことかというと、最高級のマシーン=完成度の高いレシピ。運転するドライバーがコンテスタントであるシェフ。コックピットが、監督やキッチン審査員から、コミや当日割り当てられるアシスタントまで、チーム全員だ。極端に言えば、出場者であるシェフがすべてのレシピを考案する必要はないのだという。

シェフ1人ではなく、総力戦で挑む大会に

それでは、シェフのコンテストではないという見方もできるが、ミハエル・シューマッハが運転するから優勝するわけで、テクニックのないドライバーであれば、どんなに精巧なエンジンでもそれを生かしきれない。そう聞けば納得できる。

また、毎回、ボキューズ・ドール前年の1月のひらまつ杯で1位が決まって、丸1年間で仕上げて戦ってきたが、「それでは勝てない」とは浜田シェフの言葉だ。例えば、2位受賞者を、次回のボキューズ・ドールの候補者と決め、大会に同行させ、会場やキッチンのしつらえなどを体感させるということも必要だ。そうすれば、今回のように、必要以上に緊張するということも防げるだろうと。

日本は再び2年後の大会で当然、優勝を目標に掲げるだろうが、本当に勝つためには改めて何が必要なのだろうか。

参加者及び、チームジャパンの声を総合すると、まず候補者選びの改善が欠かせない。ボキューズ・ドールが開催される前年の1月に行われる「ひらまつ杯」の勝者を候補者にすることは変えずとも、2年前倒し、準備に時間をかける。同時に2位を次回の候補者とし、ボキューズ・ドールに同行させ、大会を体感させること。

準備時間を増やすことで、大会開催直前の秋に発表されるメイン素材が何に決まろうとも、付け合わせを含めたプラッターの構想を練ることができるようになる。そして、いよいよテーマ素材が決まってからは、コーチや三つ星シェフなどとともにレシピを作り上げていく。

いわば、F1のように、「最高級のエンジン=レシピ」を総力戦で仕上げ、出場シェフが徹底的に作りこみ、完璧なまでに精度を上げる。そのためには、これまでの連載で指摘してきたように、資金や人的リソースの拡充が必要になるだろう。

日本ではシェフが自らクラウドファンディングなどを通じて資金を調達したり、自分たちで訓練設備を作ったりとシェフたちの力だけでこれまでやってきているが、勝つ国を見ていると、業界、あるいは国を挙げた総力戦で挑んできている。

日本チームの応援団(ⒸWhite Mirror)

日本の料理産業の未来を見据える必要性

日本がフランス料理界のためにそこまでやる必要があるのか、というところまで議論にも及ぶかもしれないが、これは、フランス料理界の在り方のみならず、日本における料理やレストラン産業の位置づけや、食品業界との関係、シェフのキャリアなどを幅広く見直すいい機会になるだろう。

日本がせっかく世界に美食大国として知られているのであれば、こうした大会が、レストランや食品、あるいは調理機器メーカーなどが一体となって産業を発展、成長させる道筋を考えるきっかけになることが望ましい。

最後に石井シェフにもう一度、ボキューズ・ドールに出場したいかと聞いてみた。「6~8年、みっちり修業を積んで、ミシュランの星をとるなり、ベスト50で上位に入るなり、世界的に見ても、実力と名前が知られるシェフになって、ぜひ、トライしたいです。それまでは、本当の実力をつけるために、精進するのみです」と、潔く語ってくれた。今後も、石井シェフの進化と日本の躍進を見守りたい。

(小松 宏子 : フードジャーナリスト)

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