「羊の舌のスパイス炒め」「アヒル肉のカレー」…。ネパールやバングラデシュなど海外の本場の味が楽しめる「ガチグルメ」の店が、首都圏各地で次々にオープンしています。
「ガチグルメ」とはどのようなもので、どんな人が店に足を運んでいるのか。なぜいま、ガチグルメが盛り上がりを見せているのか。その背景を探ると、日本社会のいまが見えてきました。
(首都圏局/ディレクター 加野聡子・竹前麻里子)
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新大久保のグルメに大きな変化が…
今回、私たちを「ガチグルメ」の世界へいざなってくれるのは、インド・ネパールの輸入食器販売業を営み、南アジア各国の料理を食べ歩いてきた小林真樹さんです。
訪れたのは東京・新大久保。元々、コリアンタウンとして知られる街ですが、現在は多国籍化が進んでいるといいます。
最初に案内してくれたのはバングラデシュ料理店。こちらは鯉の一種、「ルイ」を炒めた「バジ」という料理です。
こちらはアヒルの肉とジャガイモを使ったカレー。手で米とカレーを混ぜて味わうのが本場の流儀だといいます。
小林真樹さん
「バングラデシュ料理は米が主体なんです。米の本当の味を味わうためには、やっぱり手で1粒1粒触って確かめながら口に運ぶのがだいご味かなと思うので、それを楽しんでいます」
新大久保のなかでも増えているのが、ネパールの「ガチグルメ」です。ここ数年で20店舗ほどが軒を連ねるようになりました。
小林さん行きつけのネパール料理店に連れて行ってもらいました。インスタントラーメンをトウガラシや野菜とあえたサラダ。
「ネパールはいろんな民族がいて、食もすごく多様なんですよね。味も本当に最高ですね。お酒にもよく合いますし」
合原明子キャスターが、ネパールのギョーザ「モモ」に初挑戦しました。
合原明子キャスター
「皮がもちもちで、パクチーの効いたジューシーな鶏ひき肉、そして後からジワジワ辛さが効いてくる甘辛のソースがクセになります。ソースはトウガラシが結構効いていて、本格的という言葉がピッタリです」
ガチグルメの店に足を運ぶのは…
店を訪れるお客さんや働く店員は、ほとんどがネパールの人です。お客さんに話を聞くと、「料理がおいしく、結婚式や友達の誕生日などでみんなが集まりやすい場所」「新大久保はネパール人がたくさんいて、ネパールの町みたいになっている」という声が聞かれました。
小林真樹さん
「リトルネパール、リトルカトマンズなんて呼ばれています。ネパール人がネパール人を相手にして商売が成り立つ。ネパール人だけで完結する世界。ガチネパールですね」
なぜ今、ネパールの人が増えているのか。背景の一つに、留学生の存在があるといいます。
店の近くにある日本語学校を訪ねると、あるクラスではネパールからの留学生が半数以上を占めていました。
全国の日本語学校の生徒の出身国内訳は、長く中国、ベトナムが上位を占めていましたが、コロナ禍で大幅に減少。一方、ネパールからの留学生は急増し、ベトナムを抜いて中国に迫る勢いとなっています。
ネパールの人たちは、卒業後も日本に残って進学したり、就職したりするケースが多いといいます。去年ネパールから来日したアナンタ・グルンさんとスマン・ティマルシナさんは卒業後も帰国せず、日本で就職したいと考えています。
アナンタ・グルンさん
「安心・安全だから日本に来ました。会社で働けたら有給やボーナスをもらえることが、一番いいと思いました」
スマン・ティマルシナさん
「留学して日本で働いたら、日本の会社をネパールに作ったり、トップレベルで働けたりすることがあります。将来のために留学しました。私の夢は、自分の会社を作ることです」
2人は故郷の味が恋しくなると新大久保のネパール料理店を訪れます。
急増するネパール人に日本企業も注目
日本の企業が、ネパールの人たちを働き手として求める動きも広がっているといいます。日本に住むネパール人向けの新聞を発行し、20年以上にわたって在日ネパール人社会を見続けてきたティラク・マッラさんです。
就労目的などで来日したネパールの人たちが家族を呼び寄せるケースは増えており、配偶者や子どもの数は10年でおよそ6倍になりました。こうした人たちに働いてほしいと、ティラクさんのもとには連日、企業から相談が寄せられています。特にニーズがあるのは、ホテルの清掃やスーパーのパートなどの仕事だといいます。
ネパール語新聞編集長 ティラク・マッラさん
「求人広告を出しても日本人はあまり来ない。『ネパールの人は真面目で仕事をちゃんとやるから雇いたい』という社長さんは多いです。コロナ禍で日本に来るのを待っているネパール人は大勢いるんですね。学生、就労、家族滞在の人もいるし、あと2年したら、今の2倍くらいになるんじゃないですか」
在日ネパールコミュニティーが拡大する中、人気を集めているのが母国のことばや文化を学ぶことができるインターナショナルスクールです。10年前の生徒数は13人でしたが、今では3歳~18歳まで、400人を超える子どもが通っています。
この学校に通いたいと待機している子どもは300人以上。受け皿をさらに増やしていきたいとしています。
エベレスト・インターナショナル・スクール・ジャパン バットビスヌ・パラサド校長
「本校に入学させたいために、日本のほかの場所から引っ越してくる人もいます。遠くは沖縄から来た人もいるんです。約14万人のネパール人が日本に住んでいて、来日しようとしている人もたくさんいますし、家族も来ようとしています。学校がもっと大きくなるのに、広いスペースが必要なんです」
給食が食べられない 文化の違いに戸惑いも…
「ガチグルメ」を味わうことのできる場所は、関東でいくつもできています。東京都北区の東十条もその一つ。バングラデシュ出身の人が多く暮らし、「リトル・ダッカ」と呼ばれています。
東十条は、イスラム教の戒律で禁止されている豚肉やアルコールを使っていない「ハラル」の食材を扱うスーパーや料理店が集まっています。
バングラデシュは国民の約9割がイスラム教を信仰しており、東十条では安心して食事や買い物を楽しむことができるといいます。
その国の食や文化を濃密に感じるコミュニティーが相次いでできる一方で、そのコミュニティーの外では、文化や宗教、習慣などの違いに戸惑う人も少なくありません。
20年前に来日し、日本の会社で働くジャリル・ブイヤンさん。妻と子どもたちは6年前、バングラデシュから来日しました。
早朝、一家の一日は弁当作りから始まります。子供が通う学校の給食では、イスラム教で禁じられている豚肉やアルコールを含むみりんなどが使われているからです。学校側は豚肉を取り除くなどしてくれるものの、完璧な対応は難しいといいます。
作るのは、極力給食と同じメニュー。口にしたことがない日本食はレシピを検索して、味を探ります。中学生の長男には、豚肉の代わりにハラルの鶏肉で野菜炒めを。小学生の次男には、タンドリーチキンとパエリアなど、1時間かけて5品を作りました。
ジャリルさんの妻 ジャンナトルさん
「子どもたちがほかの子の食事をうらやましく思ったり、嫌な気持ちになったりしないように、できるだけ給食と同じメニューで作っています。食事を楽しめるように」
子どもを送り出し、9時からはクリーニング工場でのパートに出かけます。イスラム教徒にとって簡単ではない日本での暮らし。家族は悩み続けていました。
ジャリル・ブイヤンさん
「何年もずっと迷っています。日本に残るか、バングラデシュに帰るか。でも、子どもは大きくなったし、いま途中で帰ると子どもの勉強もあるし」
多文化社会 共生のヒントは
こうした状況を受け、対応に乗り出しているところもあります。
約90人の園児のうち、10人がイスラム教徒の保育園では、3年前、ハラルの給食を出すことにしました。調味料・食材は、すべてハラルのものを使用。調理器具や食器も一般のものと分けて使っています。
この日の主菜はホイコーロー。別のフライパンでハラルの鶏肉を使ったものも用意しました。
企業でも、宗教に配慮する取り組みが始まっています。
都内のIT企業で働くラフィ・ルバエットさん。同僚のシャゴル・シュヴァシィシュポルさんとともに社宅で生活しています。
日本に来て困ったのが、食べ物や宗教的なふるまいについてでした。ハラルに対応した飲食店はまだ少ないため、選択肢が限られてしまうからです。
ラフィ・ルバエットさん
「外食するときは、たぶん80%ぐらいはうどん食べています。天ぷらとかかしわとか。エビフライもよく食べています」
さらに、ラフィさんが信仰するイスラム教では、仕事がある日でも1日5回の礼拝をしなければなりません。
2人を採用した仲宗根俊平さんは、これまでバングラデシュの人15人を正社員として雇いました。採用にあたっては、日本人の社員に対し、イスラム教徒は食事に制限があることを周知。さらに取引先に対しても、業務中に礼拝の時間を作ってもらえるようお願いをして回りました。
ラフィ・ルバエットさん
「お祈りの時間をもてるようサポートしてもらいました。先輩たちと一緒に食事するときも、先輩が豚肉料理は一切注文しないので、私たちにとってはすごく暮らしやすくなりました」
ITベンチャー SUN代表 仲宗根俊平さん
「日本人だけですべての仕事をやるのは、今後を見据えた上では不可能だと思います。われわれが外国のカルチャーや、その人の生活をまず理解することが、共に働いていく第一歩になると思います」
日本に暮らす外国人や移民政策について研究している国士舘大学の鈴木江理子さんは、本格的な料理が異文化を理解する入り口になると考えています。
国士舘大学 鈴木江理子教授
「外国人は、人口減少のための数合わせではないということを大前提として、深刻な人口減少・労働力不足に直面している日本にとって、日本で働き、暮らしたいと思ってくれる外国人の存在は、歓迎すべきことだと思います。
日本を選んでくれる外国人を増やしていくには、外国人が単なる労働力ではなく、一人の人間として、受け入れられていると実感できる社会の構築が不可欠です。そして何より、マジョリティーである私たちが、単なる支援の対象としてではなく、対等な日本社会の構成員として、権利の主体として、外国人を受け入れ、共にこの社会をつくっていくのだという視点が必要です。
さまざまな料理を食べることによって、この地域には、どの国や地域からきた人が働き暮らしているのかを知ることができます。お店の人やお客さんと言葉を交わすことをきっかけとして、新たな出会いが生まれる可能性もあります。出会うことで、彼/彼女らが、この社会でどのように生活しているのか、想像力を働かせることから、『共に生きる』ための社会を考える第一歩がはじまるのではないでしょうか」
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