鮮やかな黄緑色の吸い物にアジサイを模した寒天、鰻(うなぎ)のかば焼きを再現した豆腐…。見るだけで楽しい料理の数々は、肉や魚を一切使わず、野菜のみからなる精進料理「普茶(ふちゃ)料理」のメニューだ。普茶料理専門店「梵(ぼん)」(東京都台東区)の店主は「旬の野菜を素材に合わせて調理し、客に感動してもらいたい」と話す。(深津響)
店の門をくぐると、茶室のような趣ある空間が広がる。全て個室の座敷部屋となっており、備え付けられた掛け軸や小窓から見える庭が心を落ち着かせる。
運び込まれた器に盛り付けられた色鮮やかな料理が目に語りかけてくる。吸い物は、旬を迎えたグリーンピースを使い、さわやかな甘みを感じる。鰻のかば焼きを再現した豆腐は、裏ごしした豆腐に、ゴボウやくわいなどを混ぜて、小骨やふっくらとした身の食感をつくりあげた。ノリに載せて成型され、見た目も食感も鰻そっくりだ。
近年の菜食主義やビーガンで注目を集める精進料理。実は国内の精進料理には、主に普茶料理と「永平寺流」の2種類があり、一般的に精進料理という場合には永平寺流を指す。永平寺流は鎌倉時代に曹洞宗の開祖・道元が中国での修行後、日本に持ち帰って広めたものだ。
一方、普茶料理は、江戸時代に中国福建省から来日した高僧、隠元が伝えた。隠元はインゲン豆を日本にもたらし、京都で黄檗宗(おうばくしゅう)を開いた。
どちらも菜食で、ニンニクやニラなど香りの強い食材「五葷(ごくん)」を用いない点では共通しているが、伝来した時代の違いなどから、異なる点も多い。
普茶料理最大の特徴は「食事を楽しむ」ことにあるという。普茶とは「普(あまねく)く大衆と茶を供(とも)にする」という意味。食そのものを楽しむ精神が込められている。
その特徴は食事の形式に表れる。永平寺流では、料理を膳に乗せ一人ずつ離れて食べるが、普茶料理は1つの机を上下の隔てなく4人で囲むことが基本だ。
鶏肉や豚肉などを、くわいやわらび粉を使って模した「もどき料理」も特徴。天ぷらに下味をつけたり、ごま油を多用したりするなど中国風の要素も強い。
店主の古川竜三さん(70)は「文人文化が花開いた時代背景を反映して、普茶料理は自由度が高く風流の心がある」と説明する。
普茶料理は主に、隠元が開いた黄檗宗大本山万福寺(京都府宇治市)やその周辺の飲食店で楽しむことができる。かつては都内でも数軒の店で普茶料理を提供していたが、現在は梵一軒のみだ。
店は昭和34年に古川さんの母が開いた。当初は母の独学で、普茶料理の本家である万福寺の色合いはあまり強くなかったという。古川さんは高校卒業後、本物を学ぼうと、万福寺に直談判。僧侶ではないため、万福寺での修行はできなかったが、僧侶の自坊でその妻から1年間研修を受けた。
研修を経て持ち帰ったものが名物となっている鰻のかば焼き豆腐だ。
メニューは月替わりで、野菜の旬だけでなく、年ごとの出来の良しあしも踏まえて考えているという。また「見ただけでおいしくないと楽しくない」と料理の見た目にもこだわる。
近年は外国人からの人気も高まっており、新型コロナウイルス感染拡大前は、外国人客のみの日もあったという。ベジタリアンらの利用も増えている。
「普茶料理は心で食べてもらうもの」
古川さんは「人が集まって一期一会を楽しんでもらう材料に過ぎない。同じ机を囲む時間を楽しんでもらいたい」と話した。
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