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料理長 絵でも楽しませる - 読売新聞オンライン

 包丁だけでなく、ペンでも素材の魅力を表現する料理人がいる。「淡路インターナショナルホテル ザ・サンプラザ」(洲本市)の田中了介総料理長(72)だ。鉛筆やボールペンで 精緻せいち に描いた魚や野菜は、紙製のお膳掛けにも印刷され、宿泊客を楽しませている。(山口博康)

 市販の赤いボールペンで、A4判のケント紙に根気強く点描したマダイ。1ミリにも満たない小さなウロコまで描き、所々に混ざる青も色鉛筆で忠実に表現した。目のつややかさからは、鮮度の良さが伝わる。

 仕事の休憩時間にペンを取り、3か月ほどで完成させたという。「描いている時は無心になる。何よりの気分転換」と笑う。

 淡路市出身。旧東浦町立仮屋中学校では、後に画家になった同級生と並ぶ絵のうまさと評判だったという。卒業後すぐに和食料理人の道へ進み、西宮市のフグ料理専門店、大阪・北新地の懐石料理店、和歌山県の名門ホテルとステップアップ。しかし、親の介護のため30歳頃に地元に戻った。

 島内のドライブインで働いた時期もあったが、ホテル関係者がその腕前を放っておかなかった。サンプラザの先代社長もその一人。当時36歳の田中さんに、新規オープンする現在のホテルの料理長を任せた。

 「1日で結婚披露宴を10件こなしたこともあった」という多忙な日々。趣味は、付き合いのために始めたゴルフぐらいだったという。再び絵を描くようになったのは、阪神大震災がきっかけだった。

 1995年1月17日。激しい揺れで目覚め、ホテルに駆けつけると、すべての器が床に落ちて割れていた。片付けをする合間にもキャンセルが相次ぎ、宿泊台帳はバツ印で埋まった。それから1年間は閑散とし、復旧作業員のまかないづくりや、被災地での炊き出しをした。若い料理人の半数近くが辞めていった。

 「気持ちが落ち込み、気力がわかなかった」。そんな時、紙と鉛筆が救いになった。絵を描くことが気晴らしになり、色合いや画面構成を考えることが、料理の創作意欲にもつながった。

 人知れず描き続けていたところ、4年前、橋屋浩二支配人の目に留まり、ホテル内のレストランで使うお膳掛けに採用されることになった。鉛筆だけでデッサンしたサザエや、色鉛筆で立体的に描いた野菜など17点がモノクロで印刷され、紹介文が添えられている。

 写実的だが、写真とは違う味わいが絵にはある。田中総料理長は「人に見せようと思って描いたわけではないけれど、お客さんに喜んでもらえるのなら、それもうれしい」。包丁とペンの技を、まだまだ磨き続ける。

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