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<ふるさとごはん 埼玉に暮らす世界の人々>(1)苦難の涙 笑顔に変える クルド料理(川口):東京新聞 TOKYO Web - 東京新聞

 コロナ禍で海外との往来は減ったけれど、実は地元に「世界」が集まっていることを見逃していませんか。埼玉県には多種多様なルーツを持つ人々がたくさん暮らしています。食卓を通して知らなかった文化やものの見方に触れ、語り合うことで、互いに豊かな一年を送れるのではー。そんな思いで、記者が県内で食べられる各国・地域のふるさとの味をたずねました。

スープの作り方を教えるクルド人講師のオズヌルさん(中)と料理教室を主宰する中島直美さん(左)=川口市で

スープの作り方を教えるクルド人講師のオズヌルさん(中)と料理教室を主宰する中島直美さん(左)=川口市で

 大鍋にグツグツ煮えるレンズ豆のスープ。褐色で、お米や小麦も入ってとろっとしている。湯気にニンニクの香りが漂う。「温まるから寒い朝にぴったり」と説明するのはクルド人女性のグネシ・オズヌルさん(28)だ。

 ここは川口市の住宅街にある民家。「クルドの食卓」(ぶなのもり)の著作があり、料理や手芸を通してクルド文化を伝える中島直美さん(64)が、自宅で料理教室を開いている。この日、日本人の参加者は五人。講師のオズヌルさんがてきぱきと料理する手つきと、マッチ棒が何本も載りそうな長いまつげにみとれた。

 この日の主菜は、鶏と野菜のグリル。調味料をもみ込んだ鶏肉と野菜をオーブンでじっくり焼く。クルドの人々が食べる肉は主に鶏や羊で、豚は食べない。

鶏肉と野菜のグリル、レンズ豆とブルグルのスープ、右奥は「ノン」と呼ばれる自家製パン

鶏肉と野菜のグリル、レンズ豆とブルグルのスープ、右奥は「ノン」と呼ばれる自家製パン

 主菜もスープもちょっと辛いのは、トマトなどに塩とトウガラシを加えて発酵させた「サルチャ」という調味料ゆえ。日本でいう味噌(みそ)の役割らしく、あらゆる料理に使う。辛さも塩気も家庭で違うそうで、まさに「手前みそ」なのだった。

 在日クルド人はほとんどがトルコ南東部の出身だ。なかでも美食で知られるガジアンテップ地方の人が多い。トルコ料理は世界三大料理と称賛されるが、そのルーツはクルド料理という説も。川口市や蕨市にはイスラム教徒向けの「ハラルフード」の店が多くあり、材料の入手に便利だという。一方、クルド人の子どもの多くは給食で日本のごはんを食べる。二人の娘がいるオズヌルさんも「焼きそばが好きで作ります」。

 川口市内で開かれた別の料理教室にも行ってみた。ここでボランティア講師を務めていたのは四十代のクルド人女性。「女の人は八歳くらいからお母さんを手伝って料理する。掃除、畑、羊の世話…。男性は休憩するけど、女性は休む暇がない」と流ちょうな日本語で説明すると、参加者から「そこは日本と一緒かも」と笑い声が上がった。

 この女性には小学生から高校生まで三人の息子がいる。クルド独立運動を支持する夫が迫害を逃れて来日し、二年後に彼女も幼い長男とやってきた。母国へ戻れば命の危険があるが、難民申請は却下された。

 トルコの学校や公共の場ではクルド語を話すと、とがめられる。多くのクルド人が差別や迫害で海外へ逃れている。だが難民認定率が極めて低い日本では、昨年初めて一人が認められただけ。女性の一家は入管施設への収容を一時免除される「仮放免」になっている。働けず、生活保護も受けられず、健康保険もない。それなのにうっかり、「お仕事は何をしてますか」と聞いてしまった。女性は黙り込んだ。大きな瞳にはうっすら涙まで浮かんできた。申し訳なさでいっぱいになり、「料理を教えるのはどんな気持ちですか」と質問を変えると、やっと笑顔が戻った。「とっても楽しい。とにかく楽しい!」

 県内でクルドの女性を支え、文化を伝える中島さんは、こう語る。「料理を披露する彼女たちは自信にあふれ、実に魅力的です。苦難を抱える人は多いけれど、しなやかに、したたかに生きている。少しでも知って、興味を持ってほしい」(出田阿生)

<クルド人> 独自の言語と文化を持つ中東の先住民族。「国を持たない最大の民族」といわれる。人口は3000万〜4500万人ともいわれる。第2次大戦後にトルコやイラン、イラク、シリア、アゼルバイジャンの国境で分断された。1990年代のトルコ政府による弾圧をきっかけにトルコ南東部から大勢が来日。国内では川口市、蕨市に集住し、約2000人が暮らす。新型コロナの影響で中断しているが、川口、蕨、さいたま市では「ネウロズ」というクルドの祭りも近年開催されてきた。

◆関心持つ きっかけに 文筆家・金井真紀さん

 食べ物を通じた交流の効用とは−。日本で暮らす海外ルーツの人々の話をじっくり聞いた近著「日本に住んでる世界のひと」(大和書房)がある文筆家金井真紀さん(48)に聞いた。

 金井さんは「ごはんを食べるのは人類の共通項。だから、外国語ができなくても国際情勢に疎くても、その国の料理を食べて話せば興味や関心を持つきっかけになりますよね」と話す。どうやって作り、どんな食べ方をするのか。風習や文化、時に社会情勢にまで話題は広がっていく。

 たとえば金井さんの友人にジャックさん(42)という男性がいる。アフリカのコンゴ民主共和国の出身で埼玉に住む。「彼は民主化運動に参加して、父母と甥(おい)を虐殺された。家族の話をしにくいけれど、料理を前にすれば『家族の中で誰が台所に立っていたの?』と話のきっかけができる」

 穀物の粉で作った「フフ」という熱々のお団子にオクラのスープをかけ、手で口に運ぶ。ジャックさん手作りの料理から言葉にも関心を持った金井さんは、友達と一緒にコンゴの言葉を教わるように。難民の人々に取材で出会ったのがきっかけで、「難民・移民フェス」というイベントも始めた。昨秋は川口市で開催し、約1200人が参加した。

 日本に住む外国籍の人は296万人超。「同じ空の下で暮らしていると考えただけで、ふわーっと心が広がっていく」と金井さんは笑顔を見せる。「コロナで海外旅行も難しい。世界は広いということを忘れそうになったとき、ごはんが思い出させてくれる」

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