何年かスタートアップで取材を続けていると、初めての取材に緊張した面持ちだった起業家があっという間に世の中を動かす経営者に変身してしまう事態に遭遇する。嬉しくもあり、同時にスタートアップ初期の未完成さが名残惜しい。
数日前にZOZOへグループインしたニュースで話題を集めたyutoriの代表片石貴展氏も、私の中ではその1人だ。今回のニュースに関して取材でオフィスを訪れたとき、彼は”インスタ起業家”ではなくなったのだと感じた。
ゆとり世代のカルチャーを誰よりも大切にしてきた彼らが、なぜ51%の株式譲渡によって老舗アパレルECのZOZOへグループインする決断に至ったのか、はたまた上場を公言することになったのか、今回は解明したいと時間をもらって話を聞いてきた。
ポエムを書いて過ごした1年目、形になった2年目
本題に入る前に、少しyutoriについておさらいしておく。2018年6月創業のyutoriはInstagramを基軸にファッションコミュニティの「古着女子」「古着男子」やオリジナルブランド「9090(ナインティナインティ)」「spoon」「centimeter」などを運営している。また、2019年7月にはバーチャルインフルエンサーのモデルエージェント「VIM(ヴィム)」を設立した。
現状の主力事業はアパレルブランドの展開で流通金額は非公開だが、昨年対比で月商10倍になっている。ブランドのアカウントの総フォロワー数は80万人だ。ポップアップストアを開けば、東京と大阪を合わせて過去2000人の参加応募がある。まさにゆとり世代のコミュニティ形成が事業によって成されている。いままでの事業の歩みに関しては、前回の資金調達時のこちらの記事を参照頂きたい。
売上が拡大し、チームメンバーも社員やアルバイトを含めて30名程度になったyutori。ZOZOへのグループインのタイミングで新たに拠点を渋谷の神泉へ移した。
「ちょっと雰囲気、変わりましたよね」に片石氏はあまり自覚がないようだったが「1年目の仕事、ほとんどポエム書いてたから(笑)」と笑っていた。詳しく聞いてみると1年目はWhy(なぜ)を詰める期間、2年目はWhat(なにを)を詰める期間だったと言う。
「今は1年目で溜め込んだ思想をどうしていくのか、を事業や組織によって言語化できた状態だと思っています。”なんかyutori好き!な人”が多かった1年目から、yutoriカルチャーの言語化や発信によって一緒にやりたいの選択肢に入れてもらえるようになってきましたね」と片石氏は話す。実際この動きにVIM事業の立ち上げや資金調達、コーポレートサイトリニューアルのプレスリリースが重なっている。
スタートアップは常に時間との勝負で1年という期間は非常に需要だ。そんな中でポエムで止まってしまわず、ビジネスの成長に繋げられたのは「その時その時にできることを必死にやって来たら今の地点に行き着いている。自分が得意なのは運営ではなく、ストーリーテリングで、いつも場をつくってきた」からではないか、ということだった。
ZOZOグループインは起承転結の「転」
取材を続ける中で「なぜZOZOにグループインしたんですか?」の問いの答えは「yutoriらしい会社の歩みをしたかった」ではないかという話に至った。スタートアップストーリーとしては、資金調達を重ねて上場を目指していくモデルが多いが、彼らは事業シナジー面はもちろん、彼ららしいやり方をしたかったのが今回のコトの根源にある。
1月に新型コロナウイルスの感染ニュースが報じられるようになり、2月から資金調達に動いていたというyutori。その中で片石氏はZOZOメンバーと会話の機会を得た。自社のビジネスモデルをプレゼンした後、話していく中で双方が一緒にやっていくイメージに確信を得て、初回の打ち合わせの帰り際にははっきりと何か進む感覚があったそうだ。ちなみに、その後コロナ禍でディールはほぼオンラインで行っていた。
「特に自分たちの文化にポテンシャルを感じてくれているところがマッチしました。世代が違うとインスタやってるだけでしょ?と価値観がすれ違ってしまうこともある中で、ZOZOはyutoriの良さの部分を見てくれたと感じていました」(片石氏)。
この2年、yutoriがコンテンツに特化して0から1のノウハウを貯めてきたが、どう昇華していくのかの部分において特にZOZO側とのシナジーを見出したようだ。
大きな決断にも関わらず「グループインへの迷いはなかった」とはっきりした答えがあった。いまは起承転結の「転」の部分でお互い持っていない部分をうまくyutoriの上の世代の人たちと掛け合わせていくことで、転じて結に辿りつきたいと説明してくれた。
発表当日は社員の多くがInstagramのストーリーズにトピックスをアップする状況になった。「自分たちがやっていることがパブリックに評価されたことは非常に嬉しいことだ」と創業からPRを担当する中沢氏も話していた。
上場が腑に落ちたきっかけはメンバーと強烈な好き
片石氏はこれまで一度も取材時に「上場したい」と発言することはなかった。今回、上場の方針を打ち出した理由は「上場への納得感ができた」のが理由だという。「上場と言う発言を言っても恥ずかしくない、言っている自分を許せるようになった」と語る片石氏が上場を目指すフックとなったのは人とコトの2つだった。
「数字もまだまだだと思う一方で、いいメンバーがいることで、やれば結果が出るということが積み重なってきたのが人の部分。コトは自分自身に好きなことが強烈にあるのが強みだと思えた部分です。
僕、10年同じ店で服を買って誰よりも古着を愛してきて、音楽とファッションで生きてきたんですよ。起業したての頃は賢さなどで周りと自分を比べてしまい、自信がなくなることもあったんですけど、yutoriを何年か運営して好きの部分を自信にしていいと思えたら妙に納得できて。起業家の成功の条件が長く続けること、だとしたら好きなことが強烈にあるのはすごい強みだな、と思えたんです」(片石氏)。
片石氏の組織のポジショニングが変わったことも大きく関係するようだ。メンバーが増え、片石氏が関与していないプロジェクトでも「yutoriっぽい!」が2019年夏頃から生まれはじめていた。
上場することで彼らは「ゆとり世代向けの発信じゃなく、世の中に対しての”ゆとり”のイメージを変えにいく。ゆとり世代の人間たちが上場したら、面白いのではないかとワクワクする」(片石氏)と先の景色を見ている。
土台が出来たからこそ走り出す
今後の展開については「どうしたいかはyutoriを見てる人でいいアイデアがある人がいたら教えて欲しいな」だそうだ。
「上場した経験はないし、yutoriに対してもっと様々な人のアイデアを聞きたい」とカルチャーを絶対にしつつ、手法にはよりオープンさを求めていくところがyutoriらしさだ。どうやら今回の取り組みを土台として新たな取り組みをどんどんはじめていく準備が整った、ということらしい。(新種かつ斬新な答えで思わず笑ってしまったが、やりとりをそのまま掲載する)
ZOZOとは今後、組織は分けつつ連携体制を構築していく。空気感や雰囲気を重視し、自分たちが心地良く一生懸命できる環境へ双方リスペクトを保った状態での事業展開を目指す。双方のカルチャーの共存については、片石氏の言葉を借りると「ファッションが好きなのは、着てるものを見たらわかるから」お互い近い価値観でリスペクトし合えるそうだ。
yutoriは、ゆとり世代以外の人にもファッションやビジネスを通じて価値観をわかって欲しいからこそ「yutori」を掲げ、社会的な評価やいままで繋がれなかった人との繋がりを今回の取り組みで加速する。
自分たちだけだと時間がかかる部分を連携によってどう加速していくか、がyutoriにとって直近の取り組みになる。土台を作り、また新たな事業の進展が見られるのか、今後新しいニュースを待ってみよう。
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August 07, 2020 at 07:15AM
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